借地権の基礎知識

借地権の地代の相場は?住宅地なら固定資産税の3~5倍、商業地なら5~8倍

借地権の地代の相場は、一般的に下のように言われます。

  • 住宅地…固定資産税の3~5倍(年額)
  • 商業地…固定資産税の5~8倍(年額)

上記はあくまで「あえて相場を出すなら」という数値だと思ってください。実際には借地権の地代はケースバイケースで決まるため、明確な相場はありません。

この記事では、明確な相場がない中で、なぜ上のような目安の数値が存在するのかを解説します。

借地権の地代に明確な相場がない根拠&理由

まず「借地権の地代に明確な相場がない」ということについて、根拠と理由をそれぞれ説明します。

  1. 根拠…不動産・建築分野の弁護士の発言
  2. 理由…「借りる価値がある土地かどうか」で地代が決まるため

根拠…不動産・建築分野の弁護士の発言

不動産・建築の分野を専門領域とする池田毅弁護士は、下のように語られています。

固定資産税の何倍という決め方は、簡易なので、確かに使われる場面はありますが、実際は、必ずしもそれだけを基準にするわけではありませんし、地域差や、土地や周辺の状況によっても大きく変わりますので、一概に相場というものがあるわけではありません。
賃料相場(借地権地代)の算出方法(弁護士ドットコム)

上の池田弁護士以外でも、多くの専門家が「明確な相場はない」と発言しています。

理由…「借りる価値がある土地かどうか」で地代が決まるため

地代も普通の商品の価格と同じように、需要と供給によって値段が決まります。「借りる価値がある」と多くの人が感じる土地なら地代は高くなり、その逆なら下がります。

「固定資産税の何倍」という方法はわかりやすいためよく用いられますが、これは上のような「需要と供給」を反映しにくい計算方法です。

ビジネス的な不動産の価値を、国が決めることはできない

固定資産税は「国が決める」金額です。納める先は市区町村ですが、計算のルールを決めるのは国です。

そして、国が決めるルールである以上、ビジネス的な不動産の価値を考慮するわけにはいきません。たとえば下のようなことを考えて固定資産税を決めてはいけないのです。

  • この土地は、A社が工場を増設する可能性があるから高い評価額をつけよう
  • この土地は、近くで殺人事件が起きたから評価額を下げよう

前者は、「高速道路や鉄道が近くにできる」ということであれば、すでに評価額に反映されています。「路線価」というシステムです。しかし「A社の工場」などは曖昧であり、国がA社の事業を高く評価することになってしまうため、評価額への反映はできません。

後者の「殺人事件」はさらにまずいものです。これで評価額を下げられたら、近隣の住民は文句を言うでしょう。固定資産税が安くなるのはメリットですが、土地や建物を売るときに「国が評価額を下げたような土地」として、安く買い叩かれるためです。

こうした理由から「民間が考慮するような価値」を、国は考慮できません。そのため、固定資産税から地代の相場を決める方法は、「わかりやすいものの、常に使える方法ではない」ということです。

「住宅地は3~5倍」という相場の根拠は?

住宅地

上に書いた通り、借地権の地代には統一された相場がありません。こう書くと、冒頭の「住宅地なら固定資産税の3~5倍」という相場がどこから来たのか、という点が気になるでしょう。これをまとめると、下のようになります。

  1. 日税不動産鑑定士会による、東京23区内の平均値
  2. 東京23区では「固定資産税の4.3倍」程度になる

以下、詳しく説明していきます。

日税不動産鑑定士会による、東京23区内の平均値

もっとも有力なデータになっていると思われるのは、日税不動産鑑定士会によるものです。同会は毎年「継続地代の実態調べ」というレポートを出しています。

東京23区では「固定資産税の4.3倍」程度になる

上のレポートの中で、東京23区の借地の地代相場は「固定資産税の4.3倍前後」となっています。下記は、弁護士法人&司法書士法人によるデータです。

日税不動産鑑定士会のデータ
東京都23区内の平均

基準時点 住宅系 商業地系
平成27年1月1日 4.35倍 4.05倍
平成24年1月1日 4.25倍 3.81倍

東京都の公租公課倍率の実情データ(みずほ中央法律事務所&みずほ中央事務所)

「住宅系」の部分を見ると、平均で「4.3倍」となります。これは冒頭に書いた「3~5倍」のちょうど真ん中となる値です。

「住宅地の借地の地代相場が固定資産税の3~5倍」というのは、このデータも参考にして語られている相場だと考えられます。

商業地は住宅地より倍率が低いが…

上の表を見て「商業地の方が住宅地より倍率が低い」という点が、気になった人もいるでしょう。この記事の冒頭では、下のような相場を書いたためです。

  • 住宅地…固定資産税の3~5倍(年額)
  • 商業地…固定資産税の5~8倍(年額)

表でまとめた東京の商業地は「4倍前後」なのに、なぜ上の相場では「5~8倍」となっているのかが気になるかと思います。この理由を説明するため、まずは「東京の商業地の相場」から解説します。

商業地は、東京なら「固定資産税の2~4倍」が目安

商業地

結論を書くと、東京に限っていえば「商業地の地代は固定資産税の2~4倍が相場」といえます。根拠を並べると下記の通りです。

  1. 日税不動産鑑定士会のデータでは「3.81~4.05倍」
  2. 裁判所での調停の平均値は「2.4倍」
  3. ある判例では、東京・吉祥寺エリアは「3倍」とされた

以下、それぞれの根拠について解説していきます。

日税不動産鑑定士会のデータでは「3.81~4.05倍」

先ほど紹介した「日税不動産鑑定士会」のデータで、商業地の部分だけをもう一度紹介します。

  • 平成27年…4.05倍
  • 平成24年…3.81倍

この2つの数値を見ると、平均値は「約4倍」といえます。

裁判所での調停の平均値は「2.4倍」

次に、東京簡易裁判所のデータも紹介します。この出典も、先に紹介した「みずほ中央法律事務所」によるものです。同事務所は、下の出版物を参考資料としています。

 『東京簡易裁判所管内における継続賃料の動向』/東京民事調停連合会『東調連会報平成7年第48号』

個のデータによれば、平成6~7年の1年間で調停が成立したのは69件です。そして、その69件で決着した倍率を見ると、商業地は「2.4倍」となっています。

先ほどの「日税不動産鑑定士会」のデータでは4倍でした。この2つを合わせると「大体2~4倍」といえます。

ある判例では、東京・吉祥寺エリアは「3倍」とされた

さらに、この「2~4倍」という相場を裏付ける判例があります。これも出典はみずほ中央法律事務所です。

同事務所は『判例タイムズ535号』のP.209から、東京高裁の昭和59年6月20日の判例を紹介しています。この判例では、東京吉祥寺駅付近の土地について「商業地は3倍程度」と、裁判官が結論づけています。

3倍ということは、ここまで書いた「2~4倍」という相場に一致します。これらのデータから「東京の商業地の借地地代の相場は2~4倍」といえるわけです。

東京の商業地の倍率が低くなる理由は?

東京

東京の商業地の倍率が低くなる理由は下記の通りです。

  1. 宅地のように小規模な商業地が多いため
  2. 宅地と同じ面積なら、固定資産税が高い商業地の方が「倍率」は低くなる

以下、詳しく説明していきます。

宅地のように小規模な商業地が多いため

東京の商業地は、宅地のように面積の小さいものが多くなります。中には大きい土地もありますが、田舎の山林などの土地と比べたら微々たるものです。

この「宅地と同程度の面積」という点に、倍率が低くなる理由があります。

宅地と同じ面積なら、固定資産税が高い商業地の方が「倍率」は低くなる

ここで説明している倍率とは「固定資産税の何倍」というものです。ということは、固定資産税がもともと大きければ倍率が低くなります。

この点で宅地と商業地を比較すると、下のようになります。

  • 宅地……固定資産税が「安い」
  • 商業地…固定資産税が「高い」

たとえば、同じ「年額100万円」の地代を取るとします。そして、それぞれの固定資産税が下のようなものだったとしましょう。

  • 宅地……10万円
  • 商業地…50万円

この場合、それぞれ「地代の100万円が固定資産税の何倍か」を計算すると、下のようになります。

  • 宅地……10倍
  • 商業地…2倍

このように、同じ地代でも商業地の方が倍率が低くなるのです。もちろん、この数値は極端な例で、実際には宅地と商業地では地代も異なります。

しかし「固定資産税が高いと、倍率が低くなる」という仕組みは理解できるでしょう。

参考…専門家による記述

ここまでの説明を裏付ける内容として、専門家の説明を引用させていただきます。書籍の執筆・テレビ出演などで多数の実績を持つ、ナレッジバンク株式会社代表の伊藤英昭氏による説明です。

商業地と住宅地を比較した場合、固定資産税の軽減措置を受けられる住宅地(固定資産税が低い)のほうが倍率が高く、軽減措置の無い商業地、事業用地(固定資産税が高い)のほうが倍率が低い傾向にあります。
収益性から見た貸宅地の問題と対応策(土地資産家の為の貸宅地権利調整マニュアル)

この説明を見ても、東京で「商業地の方が住宅地より倍率が低くなる」ことを納得できるでしょう。

全国平均で商業地の倍率が高くなる理由は?

工場

東京では商業地の倍率が低くなります。では、なぜ全国平均では住宅地より商業地の倍率の方が高くなるのか―。この理由をまとめると下のようになります。

  1. 工場・ゴルフ場などが平均値を押し上げている
  2. これらがある場所は田舎なので、土地の固定資産税が安い
  3. しかし、田舎の方が有利になる施設なので、高い地代でも需要がある
  4. よって「高い地代&安い固定資産税」となり、平均値が跳ね上がる

以下、それぞれの理由について説明します。

工場・ゴルフ場などが平均値を押し上げている

商業地というと、飲食店などの「店舗用の土地」を連想する人が多いでしょう。しかし、商業地(事業用地)には、工場やゴルフ場などの土地も含みます。

特に工場は全国各地で大規模な土地を使っています。倍率の話は抜きにして「これらの用途に使われている土地が多い・広い」ということは、まず理解できるでしょう。

これらがある場所は田舎なので、土地の固定資産税が安い

工場やゴルフ場がある場所は、ほとんど全てが田舎です。小さい工場なら街中でもありますが、公害や騒音の問題が起こるような大規模な工場は、すべて田舎にあります。

ゴルフ場については、田舎を通り越して山の中にあります。このような場所は、都市部より固定資産税が安くなるわけです。

しかし、田舎の方が有利になる施設なので、高い地代でも需要がある

固定資産税は安いものの、工場用途やゴルフ場用地としては、田舎の土地は価値があります。「都会より田舎の方が向いている」ためです。

まず、ゴルフ場に関しては言うまでもないでしょう。工場に関しては、上に書いた通り都市部では「騒音や公害の問題」が起きます。

仮に都市部で大規模な工場を建てるお金があったとしても、これらの問題を考えると「田舎に出る方がいい」のです。このような理由から、工場やゴルフ場などの事業用地としては、田舎の土地でも十分な需要があります。

よって「高い地代&安い固定資産税」となり、平均値が跳ね上がる

ここまでの内容をまとめると、田舎の土地は下のようになります。

  • 地代…高い
  • 固定資産税…安い

このため「固定資産税の○倍」という数値が、都市部よりも大きくなるのです。

補足…平均値が当てにならない分野は多い

ここまでの説明でも「平均値は当てにならない」とあらためて思った人もいるでしょう。同じ「事業用地」でも、トヨタの工場と東京のラーメン屋さんでは、面積も固定資産税の金額もまったく違うのです。

トヨタはその土地から弾き出せる利益が大きいので、多少地代が高くても借りてくれるでしょう。一方、ラーメン屋さんは高い利益は出せないので、高い賃料では借りてくれません。

そのため、東京で小さい商業地を提供する地主は、(立地の割には)安い地代で貸し出すことになります。一方、地方でトヨタのような企業に土地を貸す大地主は、(立地の割には)高い地代で貸し出せるのです。

[voice icon=”/wp-content/uploads/2018/09/IMG_1833.png” name=”不動先生” type=”l”]もちろん、トヨタというのは例えです。実際のトヨタの工場は、土地を借りるのではなくすべて買っているはずです。しかし、田舎の土地で高めの地代をとれる理由は、理解していただけるでしょう。[/voice]

このような状況で「地代の相場」を出すのは難しいのです。住宅なら個人が住める広さには限界があるので、ある程度の相場も固まります。しかし、事業用では「個別に判断するしかない」と考えてください。

(実際、東京と全国平均では真逆の相場になっているわけですから)

まとめ

土地と家とコイン

以上、借地権の地代相場について解説してきました。最後にポイントをまとめると、下のようになります。

  • 住宅地では、固定資産税の3~5倍が目安(年額)
  • 商業地では、5~8倍が目安(同じく年額)
  • 東京などの都市部は商業地の倍率が低くなり、3倍前後
  • 借地権の地代には明確な相場がなく、それぞれの状況で判断される

適正な地代がいくらかというのは、土地の貸し主にとっても借り主にとっても重要なことです。適正な地代で円満な賃貸借ができるよう、お互いによく話し合う、専門家に相談するなどの努力が重要といえるでしょう。