借地権の基礎知識

賃借人・借家人を追い出して物件を売却する際の5つのポイント

「賃借人(借家人)を追い出して物件を売却したい」と考えている大家さんもいるでしょう。この時に意識すべきポイントは、下の5点です。

この記事では、上記の5つのポイントを詳しく解説していきます。賃借人(借家人)を追い出して物件を売却することを検討している大家さんには、きっと参考にしていただけるでしょう。

賃借人(借家人)の追い出し方は3つある

売却が完了した一戸建て

賃借人・借家人の追い出し方は、主に下の3つです。

  1. 滞納などを理由に契約を解除する
  2. 立ち退き料を払って出ていってもらう
  3. 事情を説明し、納得して出てもらう(立退料なし)

それぞれ説明していきます。

滞納などを理由に契約を解除する

賃借人(借家人)が下のような問題を起こしている場合は、それを理由に契約を解除できます。

  • 契約違反(無断転貸など)
  • 債務不履行(家賃の滞納など)

このうち、特に多いのは2つ目の「債務不履行」でしょう。このような理由で追い出したいと思っている場合は、法的に正しく追い出す(契約を解除する)ことができます。

立ち退き料を払って出ていってもらう

賃借人(借家人)の側に何の落ち度もない場合、地主が立ち退き料を払うケースが多くあります。立ち退き料の金額が相場と同等かそれ以上であれば、賃借人(借家人)も応じてくれることが多いものです。

なお、立ち退き料の支払いは法的な義務ではありません。そのため、下のような方法もあります。

事情を説明し、納得して出てもらう(立退料なし)

「出ていってほしい」という理由が明らかに正当なものであれば、立退料なしで出ていってもらうことも可能です。ただ、賃借人(借家人)の側にも事情があります。

いくら大家側の事情が正当なものだったとしても、賃借人(借家人)が了承してくれるとは限りません。日頃から人間関係が良好であれば可能性はありますが、そうでなければ難航することもあるでしょう。

最終的には、引っ越し費用などの支払いは必要になるケースが多くあります。

賃借人がいるままでも、賃貸物件の売却はできる

Apartment for Rentと書かれた看板

賃借人(借家人)を追い出したい理由として「賃貸物件を売却するから」というケースもあるでしょう。この場合は、無理に追い出さなくても「賃貸中のままの売却」も可能です。この点についてポイントをまとめると、下のようになります。

  1. 賃借人(借家人)の了承は必要ない
  2. 敷金は次の大家に引き継ぐ
  3. 過去に不払いがあったら、敷金から事前に引く
  4. 「賃貸人の地位承継通知書・同意書」を作成

以下、詳しく説明します。

賃借人(借家人)の了承は必要ない

賃貸物件のオーナーが変わるとき、賃借人(借家人)の了承を得る必要はありません。物件を所有している以上、それを売却するのは自由なのです。

もちろん、振込先や連絡先は変わるので、それは賃借人(借家人)に伝える必要があります。しかし、そうした最低限の連絡さえしていれば、売ることについての了承は必要ないのです。

敷金は次の大家に引き継ぐ

ほとんどの賃貸物件では、大家は「敷金」を預かっているものです。これは次の大家、つまり物件の購入者に対して引き継ぎます。

賃借人(借家人)に返還する必要はありません。これは敷金の目的を考えるとわかりやすいでしょう。

敷金は「入居者の退去時に、修繕などが必要になった場合に充当する費用です。まだ入居者が退去していない以上、それは預かっておく必要があります。

過去に不払いがあったら、敷金から事前に引く

もし、賃借人(借家人)が過去に家賃の不払いを起こしていたとします。この場合は、次の大家に渡す敷金から、事前にその不払い分を引いておきます。

上ではわかりやすく、敷金の目的を「退去時の修繕」としましたが、滞納分への充当もあるのです。このような精算をした上で、次の大家にに渡します。

「賃貸人の地位承継通知書・同意書」を作成

次の大家との売買手続きが終わったら、次は賃借人(借家人)への通知です。これは「賃貸人の地位承継通知書および同意書」という名前のそ書類で行います。

名前は難しいですが、要は下のような内容の書類です。

  • 大家が変わりました
  • OKならサインしてください

これだけです。ほとんどの賃借人(借家人)はすぐにサインして返送・投函してくれるでしょう。この書類の書き方については、インターネット上のひな形を活用すればOKです。

一棟建て・戸建ての収益物件で、追い出しが必要な2つのケース

茶色い外壁のアパート

賃借人(借家人)が入っている収益物件にもいくつかのタイプがあります。その中でも、下の2つは「建物全体の所有権を自分が持っている」というパターンです。

  • 一棟建てアパート(マンション・ビル含む)
  • 一戸建て住宅

これらの収益物件で「売却のために賃借人(借家人)を追い出すことが必要」というのは、下の2つのケースです。

以下、それぞれ詳しく説明します。

問題のある賃借人(借家人)がいる

厄介な賃借人(借家人)がいる場合、買い手も当然つきにくくなります。そのため「その人物だけ追い出してから売却したい」ということもあるでしょう。

実際、そのような賃借人は、他の賃借人にとっても迷惑になることが多いものです。つまり「売却のため」だけではなく「他の賃借人のため」になることもあります。

この点はケースによりますが、具体的にどのような問題のある賃借人なら追い出すべきかをまとめましょう。

追い出すべき賃借人のパターン

一般的なパターンでは下のようなものがあります。

  • 家賃を長期間滞納している
  • 他の入居者に迷惑をかける
  • 部屋の使用状況に問題がある

1つ目と2つ目については、特に説明しなくても理解できるでしょう。3つ目の「部屋の使用状況」は、主に下のようなものです。

  • ゴミ屋敷になっている
  • 勝手にリフォームをしている
  • 防火設備の点検などを受けない

ゴミ屋敷については、外に臭いが漏れれば「他の入居者への迷惑」という2つ目のパターンに該当します。しかし、臭いが出るほどではないゴミ屋敷もあるでしょう。

大家が窓から見てそれに気づいたら警告するべきですし、警告しても改めない場合は退去を迫るべきです。また、勝手なリフォームも同様です。

「防火設備などの点検」については、入居者として拒否できない検査がいくつかあります。これを拒否し続ける場合も、やはり退去を迫るしかないでしょう。

上記のような賃借人は、物件の売却の前に追い出すべきだといえます。

建て替えをしてから売り出したい

一棟アパートや戸建住宅で、自分が所有権を持っている場合は、建て替えも自由にできます。しかし、賃借人(借家人)がいるとできません。

このため、彼らに一度退去してもらってから建て替えをする、というパターンがあります。これについては賃借人(借家人)に一切落ち度がないため、誠心誠意説明し、立ち退き料を払うなどしてフォローすることが必要です。

建て替えをすることで高く売れる収益物件とは?

これは主に「立地が良い物件」です。そうでなければ、建て替えの工事費用の方が高くつくことも多いでしょう。

たとえば「廃墟マンションだけど立地は最高」という場合は、建て替えをして売却した方が有利といえます。

マンション一室の収益物件の売却は、賃借人に退去・購入の予定がないか確認する

マンションのリビング

上の段落では「建物の所有権をまるごと自分が持っている場合」の追い出しについて書きました。ここでは、建物の所有権がなく「マンション一室だけを賃貸に出している」ケースについて書きます。

このケースで賃借人の追い出しが必要かどうかは、下の4つのポイントで考えるべきです。

  1. まず、賃借人の予定を確認する
  2. 退去予定があるなら、その時まで待つ
  3. 購入意思があるなら、売買交渉をする
  4. どちらの予定もないなら立ち退き要請をする

以下、それぞれのポイントについて説明します。

まず、賃借人の予定を確認する

最初にすべきことは、管理会社などを通じて入居者の予定を確認することです。確認する内容は下の2点です。

  • 近々退去する予定はないか
  • この部屋を購入する意思はないか

管理会社を間に挾んでいない場合は、何かの用事のついでにさりげなく聞き出しましょう。そして、この時の賃借人の予定次第で、これから説明する通りの選択肢があります。

退去予定があるなら、その時まで待つ

近々退去する予定があるなら、わざわざ追い出す必要はありません。それがかなり先だったら別ですが、近い期日だったら待つのがいいでしょう。

そして、不動産を売却するときの物件情報にも「2019年5月頃入居可能」という風に書くことができます。

購入意思があるなら、売買交渉をする

賃借人(借家人)が「この物件を買い取りたい」と思っているなら、これは特に良いシチュエーションです。追い出しの必要がないだけでなく、売却活動すら不要になります。

もちろん、賃借人が希望する価格とこちらの希望が釣り合うとは限りません。そのため、交渉は必要になります。

ただ、下のことを考えると「好条件でスムーズにまとまる可能性が高い」といえるでしょう。

  • 物件の状態をよく知っている
  • 今までの家賃も納得して払ってくれていた
  • その部屋が生活の基盤となっている

もちろん、その賃借人の性格にもよりますが、これだけの条件が揃っていると、交渉は上手くいきやすいといえます。

どちらの予定もないなら立ち退き要請をする

退去や購入の予定がない場合、立ち退き要請(追い出し)をするしかありません。賃借人が住んでいる状態では内覧を受け付けられないためです。

もちろん、賃借人が「そのまま内覧を受けてもいい」と言ってくれる可能性もあります。しかし、やはり人が住んでいる状態では部屋の本当の状態がわかりにくく、購入者も二の足を踏むものです。

このため、転居や購入の予定がないなら、一定期間より後に立ち退いてもらうよう、要請するべきでしょう。

立ち退き料の支払いは法律的な義務ではない

シャッターが閉まった店舗

賃借人・借家にを追い出す時、地主が立ち退き料を支払うことは義務ではありません。下の2点に分けて説明していきます。

以下、それぞれ詳しく解説していきます。

専門家の説明

「立ち退き料の支払いは法的な義務ではない」ということを確認するため、「専門家がどのように説明しているか」を見ていきましょう。

ふたば総合法律事務所は立退料について「必ず支払わなければならないものであるとは限りません」と書いています。

また、ベリーベスト法律事務所は、立退料について「あくまで正当事由の補完要素」とし、「立退料の支払義務や立退料を請求する権利を定めた法律もありません」と書いています。

教えて!gooの「立ち退き料を大家が拒否!!法的にどうなんでしょうか?」というQ&Aでは、明成法務司法書士法人の高橋遼太・司法書士が、下のような内容を回答されています。

  • 契約書に明記されていなければ、立退料を大家に要求するのは難しい
  • 「スムーズに立ち退いてもらうため」に出してくれる大家もいる
  • しかし、大家さんがそう考えておらず、立ち退き請求の理由も正当なら難しい

これらの説明から「立ち退き料の支払いは法的な義務ではない」とわかります。

「義務である」という主張はどこから来たのか

「立ち退き料の支払いは法的な義務である」という主張も一部で見られます(専門家でこのような主張をする方はいません)。

こうした主張がどこから来たのかを調べると、下の借地借家法の条文に行き着きます。

第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
借地借家法28条「建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件」(e-Gov)

太字の部分が「大家が立ち退きを請求するために必要な条件」です。一覧にすると下のようになります。

大家が立ち退きを要求するために必要な条件
  • 建物を必要とする事情(大家の)
  • これまでの経過
  • 建物の利用状況(借家人・賃借人の)
  • 財産上の給付がある(立ち退き料がある)

上のように、4つ目に「立ち退き料の支払い」が含まれているわけです。ここから「立ち退き料の支払いは法的な義務である」と主張する人もいます。

しかし、これは間違いなのです。理由を説明します。

立ち退き料の支払いは「条件の一つ」に過ぎない

上に書いた通り、条件は4つあります。そして、立ち退き料の支払いは「他の3つの条件を補完するもの」です。極端な話「他の条件が強烈だったら、立ち退き料を払わなくても賃借人(借家人)を追い出すことができる」といえます。

一番わかりやすいのは「賃借人が長期間滞納を繰り返していた」というものでしょう。これは、4つの条件の中の2つ目「これまでの経過」に該当します。

例えば1年間家賃を支払わなかった賃借人・借家人に対して、立ち退きを請求するのは当然でしょう。そして、一般的に考えて、この場面で立ち退き料を支払う必要はないはずです。

  • 明らかに賃借人(借家人)の方が悪い
  • 立ち退き料を払うにしても、これまでの滞納分と相殺するべき

このような理由からです。なお、立ち退き料なしだと「滞納分との相殺」もないので、退去後も賃借人は、その滞納分を支払う義務があります。

このように、立ち退き料の支払いは「4つの条件の1つに過ぎない」のです。このため、いくら借地借家法の28条に記載されていたとしても「法的な義務」とはいえません。

(むしろ法律は「法的な義務ではない」「立ち退き料を払うかどうかは、総合的な事情で判断すべき」と言っているのです)

まとめ

SOLDの文字が大書された看板

以上、賃借人(借家人)を追い出して物件を売却するときのポイントについてまとめてきました。最後に要点を整理すると、下のようになります。

賃借人・借家人を追い出して物件を売る時のポイント・まとめ
  • 追い出す方法は3つある
  • 「滞納などで契約を解除する、立ち退き料を払う、立ち退き料なしで納得して出てもらう」の3つ
  • 賃借人がいる状態でも物件は売れる
  • 収益物件の売却では、入居者に退去や購入の予定がないかを確認する
  • 立ち退き料の支払いは、契約書に書かれていなければ義務ではない

悪質な滞納などの問題があった場合は別ですが、そうでない賃借人(借家人)なら、無理に追い出すことは避けるべきです。できるだけ円満に解決できるよう、不動産会社・弁護士などの専門家に相談しながら、うまく交渉するようにしましょう。