借地権の契約で「普通借地権」を選ぼうとしている時、気になるのは「期間のルール」でしょう。これは下のようになっています。
当初 | 30年以上 |
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1回目の更新 | 20年以上 |
2回目の更新 | 10年以上 |
それぞれの年数は、借り主と地主の両者が合意すれば、もっと長い年数にしてもかまいません。
この記事では、上記のルールについてさらに詳しく説明しつつ、関連する知識を解説します。普通借地権の期間やその他のルールを知りたい方には、きっと役立てていただけるでしょう。
普通借地権の期間は「30年・20年・10年」
普通借地権の期間は、冒頭に書いた通り3段階のルールが設定されています。初回30年以上、1回目の更新は20年以上、2回目の更新は10年以上というルールです。
これに補足して説明すると下のようになります。
以下、詳しく説明します。
普通借地権の更新を地主が拒否できるケースは少ない
普通借地権は「更新できることが前提」の借地権です。そのため、更新時に地主が拒否することは、なかなかできません。この点を、専門家は下のように解説しています。
借地契約は期間満了時に『更新』する方が,現実的な原則です。
(中略)
『正当事由』がある場合に限って,地主が『更新拒絶』できるのです。
借地の更新拒絶には『正当事由』が必要(みずほ中央法律事務所)
要は、地主側に「正当事由」があれば更新の拒否もできるということです。しかし、その条件は厳しいもので「普通は拒否できない」と考えてください。
合計60年以上の期間、借りられる可能性が高い
上記のように、地主に正当事由が発生しない限り、普通借地権は何度でも更新できます。つまり、30年・20年・10年という年数を合計した「60年」よりも長く借りられる可能性が高いのです。
2回目の更新以降も、何度でも更新できる
10年以上という条件が付くのは2回目の更新(初回契約も入れると3度目の契約)ですが、これ以降も更新は何度も可能です。3回目の更新も10年、4回目の更新も10年…、という風に最短でも10年ずつ延長できます。
(もちろん、合意が取れればもっと長い年数での延長も可能です。10年というのはあくまで最短の場合です)
普通借地権の更新拒否の正当事由とは?
正当事由を一覧にすると下の通りです。
まず、上記の一覧の根拠を示すと下の通りです。
借地の正当事由は、地主及び借地人が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況、並びに立退料の申出を考慮して、判断されます。
借地における地主からの更新拒絶
上の引用文を箇条書きにしたものが、先ほどの4つの条件です。以下、それぞれの条件について説明していきます。
地主が土地を必要とする理由
これが最も重要な条件で、更新拒否をできるかどうかのほとんどは、これで決定します。
- 地主の事情
- 借り主の事情
両者を比較して「より必要とする割合が大きい」という方に軍配が上がります。地主の事情がどれだけ切実でも、借り主の事情がさらに切実だったら、更新拒否は認められません。
大抵は借り主の方が切実
ほとんどのケースでは、借り主の事情の方が切実といえます。借り主はそこで家を建てて住んでいたり、店舗を構えて営業していたりするからです。
家を追い出されても店舗を追い出されても、どちらも借り主の生活に直接打撃を与えます。一方、地主の方は更新拒否をできなくてもそれほど大きな打撃はありません。
余裕があるから土地を貸している
そもそも土地を貸しているということは「土地が余っている」「別の不動産を持っている」ということです。そして、これまでその土地を使わなくても生活できていたわけです。
こう考えると「土地を貸している」という時点で、地主の「切実な事由」は、借り主のそれと比較すると弱いといえるでしょう。
「借金の返済のために土地を売る必要がある」という理由はOK
地主の側に借り主を超える切実な事情が生じるとすれば「借金の返済のために、その土地を売らなければいけない」というものです。これなら「売れなければ経済的に人生が終わってしまう」ということで、一般的な借り主よりは切実な事情といえます。
もちろん「底地権だけでも売れる」のですが、「それでは足りない」「底地権だけでは本来より価値が落ちる」などの理由で、借地権を取り戻したいケースは多いでしょう。このような理由があり、しかも「更新のタイミング」ということであれば、更新拒否が認められる可能性があります。
借地をめぐるこれまでの経緯
これは主に「地代の滞納などがなかったか」です。たとえば借り主が長期間・頻繁に地代の支払いを滞納していた場合、地主が更新拒否をするのは自然といえます。
その度合や地代の金額にもよりますが、一般的に見て「更新拒否が妥当である」と判断されるレベルなら、こうした過去の経緯を理由に更新を拒否することもできます。
土地の利用状況
借地人(借り手)が、その土地をどう使っているかも重要な要素です。たとえば自宅・店舗・事業所などとして使っている場合「切実に土地が必要」といえます。
逆に「別荘・転貸用物件」などとして使っている場合、それほど切実に必要ではないといえるでしょう。この点は最初にあげた「土地を必要とする事由」とも似ています。
違いとしては、こちらの方が「実際の使い方」をよく調べるという点です。「自宅」というなら、実際にどのくらい居住しているのか、子供はいるのかなどの諸条件も考慮されます。
地主側の事情が強力な場合は、このくらい細かくチェックしないとどちらが切実かわからない場合もあるでしょう。逆に言うと、、地主の事情がそれほど強くない場合は、そこまで細かく利用状況を調べる必要はないといえます。
立ち退き料の有無
地主側がここまでの条件をすべて満たしていたとしても、立ち退き料を払わないのであれば、大抵の更新拒否は認められません。いわば立ち退き料は「最後の仕上げ」といえます。
- すべての条件を満たしている
- 必要な立ち退き料を払う
この2つの要素が揃って初めて「すべての正当事由が揃った」ということです。このような場合は、普通借地権の更新ができないこともあります。30年・20年・10年のどれかのタイミングで借りられる期間が終わる、ということもありえるわけです。
更新されたくない地主は「定期借地権」を選ぶべき
「土地は貸したいが、いつまでも借り主の物のようになると困る」という地主の方もいるでしょう。この場合は普通借地権ではなく「定期借地権」を選ぶのがおすすめです。
この理由をまとめると以下の通りです。
以下、それぞれ詳しく解説していきます。
定期借地権には更新がない
定期借地権は普通借地権と違い、更新がありません。期間が満了したら建物を解体し、更地にして戻すのが原則です。
このため「とりあえず借地に出したいけど、いつまでも使われるのは嫌だ」という地主は、定期借地権を設定するといいでしょう。
期間は50年以上
定期借地権の期間のルールは「50年以上」となっています。双方が合意すれば60年、70年などもっと長い年数にすることも可能です。
普通借地権の契約当初は「30年以上」というルールなので、定期借地権の方が長くなっています。普通借地権と違って更新がない分、できるだけ借り手が長く借りられるよう考慮されているわけです。
満了時点で双方が合意すれば、延長も可能
定期借地権で期間が満了しても、必ず契約を終了しなければいけない、ということではありません。地主も借り主も延長したいということであれば、延長も可能です。
その際の契約の仕方はケースバイケースなので、専門家に相談して決めるようにしましょう。
まとめ
以上、普通借地権の期間について解説してきました。最後にポイントをまとめると、下記の通りです。
- 契約当初は30年
- 1回目の更新は20年・2回目の更新は10年
- 両者が合意すれば、もっと長くしてもいい
- 上記は最低年数なので、確実にこの年数は保証される
- 地主が更新拒否をするには正当事由が必要
- 更新されたくない地主は、定期借地権にするのがおすすめ
「借地権は所有権に近いくらい、借り手にとって強力な権利」としばしば言われます。これは今回の普通借地権の期間のルールを見ても実感していただけるでしょう。
「借地」というと「面倒・不自由」というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、やり方によっては特に借り手の場合「小さな初期投資で大きな権利をつかめる」という考え方もできます。
逆に地主の側にとってはこれは「普通借地権のリスク」ともいうべきものです。借地契約をするときは、借地のルールについてよく調べ、契約内容を決めるようにしましょう。